医療法人の設立~目的・組織・財産編~
Ⅰ 医療法人制度の概要
1 医療法人制度
(1) 知事の認可が必要です
病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする社団又は財団は、愛知県知事の認可を得て、医療法人とすることができます。
(2) 医療法人制度の目的
医療法人制度の目的は、医療を提供する体制の確保を図り、国民の健康保持に寄与することにあります。その趣旨は、医療事業の経営主体を法人化することにより、
①資金の集積を容易にするとともに、②医療機関等の経営に永続性を付与し、私人による医療事業の経営困難を緩和することにあります。
その結果としては、①高額医療機器の導入が容易になる等医療の高度化を図ることができ、②地域医療の供給が安定する等の事項が考えられます。
2 医療法人の役割
医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めることとされています。
3 医療法人の非営利性
医療法人は、医療事業の経営を主たる目的としています。
医療法人は、民法上の公益法人と区別されていますが、これは医療事業が公益事業のような積極的な公益性を要求すべき性格のものではないからです。
一方、医療法第54条で剰余金の配当が禁止され、営利法人たることを否定されています。この点で株式会社などの商法上の会社とも区別されています。
4 医療法人の種類
(1) 社団と財団
医療法人には、医療法人社団と医療法人財団の2種類があり、その違いはおおむね次のとおりです。
ア 医療法人社団
複数の方が集まって設立された法人であり、法人の設立のため、預金、不動産、備品等を拠出して設立する法人です。
改正医療法により出資持分のない法人しか設立できません。法人が解散したときは医療法第44条第4項及び定款に定める方法により残余財産を処分します。
なお、改正前の医療法で設立された医療法人社団には、出資持分のある法人や、払戻しに際し出資額を限度とする出資額限度法人があります。
イ 医療法人財団
個人又は法人が無償で寄附した財産に基づいて設立される法人で、財産の提供者(寄附者)に対しても持分を認めず、解散したときは医療法第44条第4項及び寄附行為に定める方法により残余財産を処分します。
(2) 一人医師医療法人
医療法(昭和23年法律第205号。以下「法」という。)の改正(昭和60年)前の医療法人(病院又は常勤の医師が3人以上の診療所を開設している法人)に対し、当該改正後の常勤の医師が一人又は二人の診療所を開設している法人を、いわゆる「一人医師医療法人」と言いますが、医療法上は設立、運営、権利及び義務に関して何ら区別はありません。
したがって、医療法人の設立申請手続に関しても異なるところはありませんし、役員や社員が一人でいいということでもありません。
Ⅱ 医療法人の設立
1 医療法人の設立申請ができる方
(1) 医師又は歯科医師である方
(2) 欠格条項(法第46条の2第2項)に該当していない方
ア 成年被後見人又は被保佐人でない方
イ 法、医師法、歯科医師法及び関係法令に、現在及び過去2年間違反していない方
ウ 禁錮以上の刑に処せられ、刑を執行されているか執行猶予期間中でない方
2 医療法人の構成
(1) 役 員
医療法人は理事(原則として三人以上)と監事(一人以上)を、その役員として置かなければなりません。
役員は、前記1(2)の「欠格条項」に該当していない方で、自然人に限られます。
また、未成年者、設立しようとしている法人と取引関係にある営利企業の役職員になっている方が役員に就任することは望ましくありません。
ア 理 事 管理者は、原則として理事にならなければなりません。理事には、通常、社員の全部又は一部の方が就任しますが、社員以外の方が就任しても差し支えありません。
イ 理 事 長 理事長は、医師又は歯科医師であることが必要です。理事長は、理事の中から互選されます。
ウ 監事 監事は、理事や医療法人の職員と兼務することはできませんが、社員であっても差し支えありません。
ただし、出資金等の拠出はしないでください。設立しようとしている法人と利害関係が深い方、他の役員と親族等の特殊の関係がある方は就任できません。
(2) 社 員(設立者)
医療法人社団は、人々の集合体であり、その人々を社員といいます。
社員は、原則として三人以上としてください。
拠出した方は、原則、社員になります。
3 医療法人の名称
原則として、医療法人(社団又は「財団」)○○会○○(医院又は病院)等。
4 医療法人の財産
(1) 拠出(寄附)財産(負債を除く。)
ア 財産の種類
(ア) 基本財産 ・・・・・・・・・・・・・ 不動産、運営基金等の重要な資産
(イ) 通常財産 ・・・・・・・・・・・・・ 基本財産以外の資産
イ 財産の評価額
(ア) 不動産、借地権 ・・・・・・・ 不動産鑑定評価書又は固定資産評価証明書の額
(イ) 預 貯 金 ・・・・・・・・・・・・・ 残高証明の額の範囲
(ウ) 医業未収金 ・・・・・・・・・・・ 前年実績からの推計値
(エ) 医薬品、材料等 ・・・・・・・ 帳簿価格
(オ) 医療用器械備品 ・・・・・・・ 減価償却した薄価
(カ) 什器備品 ・・・・・・・・・・・・・ 減価償却した薄価
(キ) 電話加入権 ・・・・・・・・・・・ 時 価
(ク) 保証金等 ・・・・・・・・・・・・・ 契約書の金額(契約書に、償却に関する条項があ
る場合は、償却後の金額)
(ケ) 内装、附帯設備 ・・・・・・・ 減価償却した薄価
(2) 負債の引継ぎ
ア 拠出(寄附)財産の取得時に発生した負債は、医療法人に引き継ぐことができます。
ただし、法人化前の運転資金、消耗品類の取得に要した費用に係わる負債は、引き継ぐことができません。
イ 負債の引継ぎは、債権者の承諾(様式7参照)及び根拠資料を必要とします。
(3) 運転資金
ア 原則として初年度の年間支出予算の2か月分に相当する額(様式16参照)とします。
イ 預貯金、医業未収金等の換金が容易なものとします。
ウ 設立後の金融機関等からの借入金は、運転資金として算入できません。
Ⅲ 基金制度について
1 基金について
基金とは、社団医療法人に拠出された金銭その他の財産であって、当該医療法人が拠出者に対して、定款の定めるところに従い返還義務を負います。
剰余金の分配を目的としないという医療法人の基本的性格を維持しつつ、その活動の原資となる資金を調達し、その財産的基礎の維持を図るための制度となります。
2 基金を引き受ける者の募集等に関する定款の定め
基金制度を採用する場合は、基金を引き受ける者の募集をすることができる旨を定款で定めることが必要となります。
3 募集事項の決定
基金を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、次に掲げる事項を定めなければなりません。
(1) 募集に係る基金の総額
(2) 金銭以外の財産を拠出の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
(3) 基金の拠出に係る金銭の払込み又は(2)の財産の給付の期日又はその期間
なお、設立時社員は、募集事項を定めようとするときは、その全員の同意を得ることが必要となります。
4金銭以外の財産の拠出
(1) 基金に拠出する金額の価格が、5百万円を超える場合には、その価格が相当であると弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人の証明が必要となります。
(2) 次に掲げる方は、(1)の証明をすることはできません。
ア 理事、監事又は使用人の方(法人の設立前にあっては、設立時社員、設立時理事又は設立時監事)
イ 基金の引受人
ウ 業務の停止の処分を受け、その停止の期間を経過しない方
エ 弁護士法人、監査法人又は税理士法人であって、その社員の半数以上がア及びイに掲げる方に該当する場合
5基金の返還
(1) 基金の返還は、定時社員総会の決議によって行わなければなりません。
(2) 社団医療法人は、ある会計年度に係る貸借対照表上の純資産額が次に掲げる金額の合計額を超える場合は、当該会計年度の次の会計年度の決算に関する定時社員総会の日の前日までの間に限り、当該超過額を返還の総額の限度として基金の返還をすることができます。
(3) (2)に違反して基金の返還をした場合は、返還を受けた者及び返還に関する職務を行った業務執行者は、医療法人に対して、連帯して(2)に違反して返還された額を弁済する責任を負います。
(4) (2)に違反して基金の返還がされた場合は、医療法人の債権者は、返還を受けた者に対し、返還の額を医療法人に対して返還することを請求することができます。